
新年早々、新潟県湯沢町の「かくらスキー場」で、男女三人がバックカントリーを滑っていて遭難する事故が発生した。
幸い三人は命に別状なく二日後無事救助されて事なきをえた。
三人が生き延びたことには、いくつか条件があったからだろう。
1 行動面
① コースを見失ったと思ってから、行動することを止めたこと。(体力温存、滑落等の危険回避)
② 遭難後、雪洞を掘ってビバークしたこと。(防寒対策)
③ その後も不用意に移動せず救助を待ったこと。(体力温存)
2 持ち物
① スコップを持っていたこと。(雪洞を掘りやすい)
② チョコレート、ゼリーなど非常食を持っていたこと。(エネルギーの補給)
③ 防寒用マットを持っていたこと。(防寒対策)
3 同行者三人で行動を共にし、ケガなどなくみんな元気であったこと。
ただ彼らは、万が一に備えある程度の装備はあったことは、結果的に命を救ったのだが、遭難しないことの方がはるかに重要である。
室町時代の剣豪「塚原卜伝」(つかはら ぼくでん)にまつわるエピソードがある。
これは危機管理全般に通じることであるので、改めて取り上げたい。
★塚原卜伝のエピソード★
塚原卜伝が剣の極意を伝授しようと考えている優秀な弟子がいた。
その弟子がある日、道端につながれた馬の後ろを通ろうとしたところ、ぱっ、と馬が後ろ足を跳ね上げたとき、とっさに弟子は飛びのき、蹴られずに済んだ。
「ひらり、と身を翻したあの素早さ、さすが卜伝の高弟だけのことはある」と、見ていた人たちは、そういって褒めた。
ところが、それを聞いた卜伝は機嫌を悪くした。
「そうか。あの男は極意を授けるような器ではないな」と言った。
人びとは訝(いぶか)り、では卜伝ならどうするか試してみようと、暴れ馬を通り道につないでおいた。
馬がいるのに気づいた卜伝は、うんと離れて通ったので、人と見れば蹴る癖のあるその馬も、おとなしくしている。
拍子抜けした人びとに、卜伝は言った。
「馬が跳ねた瞬間、素早く身を翻すのは、技が優れているように見える。しかし、馬は蹴るものだということを忘れて近づいたのはうかつだ。本当の名人は、近寄らないものだ」
技だけ優れていても、せいぜい達人。名人にはなれないということだ。
今回の遭難は、まったくこのエピソードと同じだ。
山では、遭難した場合の装備も大事だが、遭難しない対策のことの方がはるかに大事である。
彼らの犯した過失は、次の点にあるだろう。
1 冬山を甘く見たこと。
スキー場近くのバックカントリーといっても、湯沢カグラは標高二千メートルを超える列記とした冬山である。
2 天候、地形、積雪条件の十分な確認が欠けていたこと。
変わりやすい山岳気象、雪山の地形は降雪により常に変化する。過去に滑ったときと同条件とは限らない。
3 登山届を出さなかったこと。
バックカントリーは、あくまでも登山と同様に登山届の提出が必要にもかかわらず、パトロールに嘘をつきコース外に出たこと。
そして、スノーボードがスキーより遭難するケースが多いのは、スキーは基本的に上下左右に移動が可能であるが、スノボーは下る以外は困難であることだろう。
スノボーを外せば、ツボ脚で腰まで雪に埋まり身動きが出来なくなるだろう。斜度が40度を超えた積雪の多い斜面では、蟻地獄のようになり登ることは困難を極める。これは雪温が低い粉雪ほど厄介である。
何度か、ボーダーの遭難救助活動に関わったことがあるが、彼らは迷ったと思っていても、とにかく斜面を下ってしまうことだ。
そして、遭難しても後生大事にボードを離さず持っている。救助されるときも、ボードも持っていってほしいと頼む者がいる。
何が大事かよく考えてほしいもの。捜索をする方も、雪山では本当に大変なんです。命がけの時もあるし、手も足も冷たいんですが、、。
バックカントリーを楽しむ方は、本当に万全の知識と準備をして、常に撤退する勇気を持ってきてください。
※上の写真は、YAMABOKUのタコチコース入口
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