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「氷壁」の真実

IMGP2757.JPG 井上靖の小説「氷壁」は映画やテレビドラマでお馴染みですが、その題材となった前穂高での滑落事故には、ナイロンザイルがあっけなく切れたという信じられない事実が隠されていたんです。

nairon.jpg 『石岡繁雄が語る ― 氷壁・ナイロンザイル事件の真実』によると、昭和30年当時、「11ミリ麻ロープより8ミリのナイロンザイルは3倍の強度があり、1トンの引っ張りにも耐える。」というメーカー保証付きナイロンザイルが発売された。

 岩稜会は、早速、高価なナイロンザイルを購入し、冬季未踏の前穂高岳東壁のAフェースから頂上へのアタックで初めて使用することにした。
 
 アタック隊には、会所属の三重大の若山五朗ほか1名と中央大の1名が選抜された。昭和30年元旦から壁に張り付き、翌日頂上直下40mを若山がトップで登攀中に事故が起きる。

 このとき若山は、たった50センチスリップをしてしまったが、メーカー保証付きザイルが何のショックもなく切断され若山は転落死してしまう。

 いとも簡単に切れたナイロンザイルの性能に疑問を持った岩稜会会長で若山の実兄石岡(名大OB)らは、独自の実証実験や現地調査、さらに実際に切断したザイルの検証を行い、ナイロンザイルの欠点を解明していく。

 しかし、ザイルメーカーや日本山岳会篠田関西支部長(メーカーアドバイバー的存在の阪大教授)らは、ナイロンザイルの弱点を把握していながら、岩稜会の解明した事実の公表を拒んだばかりか、篠田支部長指導の下、転落事故を再現しナイロンザイルは切れないという公開実験を行ったのだ。

 実はこの実験にはトリックがあり、細工がされた偽証実験であったことが後に証明されるのだが、この偽証実験は「ナイロンは切れない」という一層誤った情報を発信し、第二第三のナイロンザイル切断事故を多数引き起こし尊い命が失われている。
 
 その後、岩稜会と篠田教授らとの長い闘いが始まる。闘いは20年にもおよび、ナイロンザイルは岩角で切れることは一般に認知されていく。 
 このことが一つの契機となって、登山ロープの製造物責任のあり方に道筋をつけることとなり、今では、ロープ毎に強度や使用方法が明記された説明書が付されている。これも尊い命や岩稜会の闘いの上にあることを忘れてはいけない。

 当然、ロープの使用に際し、その性能を理解し使用方法を誤らないように細心の注意を払わなければならない。
 
 2006年初めにNHKテレビでリメークされた「氷壁」は、滑落原因をナイロンザイルの切断ではなく、カラビナの損壊に設定が変えられ、現実の事件の核心から免れてしまったことを、筆者は非常に悔やんでいる。

 また、この転落事故で使用されたナイロンザイルなど事故を物語る資料は、大町市山岳博物館に展示(写真は同館HPより)されているようなので今度立ち寄ってみたい。(N)


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COMMENT
[2] 管理者(訂正とお詫び) | 2014/07/11 21:35
 ブログ「『氷壁』の真実」の記述中、「さらに筆者は、小説「氷壁」はこの滑落事故を素材にしているものの、滑落原因をカラビナの損壊に置き換え、現実の事件の核心から免れてしまっていることに不満が残る」と記載した行につきまして、共著者の相田武男氏より、本書の石岡先生の記述を確認するようコメントをいただきました。

 本書「氷壁・ナイロンザイル事件の真実」を再度確認し、ご指摘とおり記述に誤りがあることを確認しました。

 当方の記憶違いで、確認が不十分となっておりました。誠に失礼をいたしました。訂正しお詫び申し上げます。

 今後とも、ご指導ご厚情をよろしくお願いします。
[1] 共著者Aida Takeo | 2014/07/11 09:56
ラストの4行目に「滑落原因をカラビナの損壊に置き換え・・・・」のくだりは、NHKテレビが2006年1月に放送したリメーク版のことについての記述です。本書の<はじめにー若い人たちに伝えたいナイロンザイル事件>の最初の頁から次の頁にわたって石岡先生の記述がありますので、ご確認ください。いいブログですので多くの人に読まれると思います。より正確を期していただくことで、当ブログの存在は一層貴重なものになると予想しております。今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
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