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検証 学習院大阿弥陀岳遭難事故 まとめ

 前日につづき、「検証 学習院大学阿弥陀岳遭難事故」を続けます。今回は、事故の検証結果を踏まえた問題点などが明らかにされた。
 このまとめをもって、遭難事故の連載を終わりとします。

 この遭難事故の問題点は何だったのか。どうして二人は亡くなったのか。今明らかになる。

前号①はこちら
前号②はこちら
前号③はこちら
前号④はこちら

(前号④の続き)

 おことわり、実際の報告書では全て実名で表記されていますが、本ブログでは個人のプライバシーに配慮し次のとおり表記します。ご了承ください。

 5人パーティーの主将で4年の男子学生をCL、2年の男子学生のサブリーダーをSL、もう一人の2年の男子学生をA、1年の男子学生をB、1年で唯一の女子学生をC。


【最終回 まとめ】

 この遭難事故を受けて、学習院大学山桜会(学習院の大学、高等科、短大の山岳部の卒業生の会)は、阿弥陀岳遭難事故対策本部を立ち上げる。

 そしてOBを中心としたチームを結成し、計三回の現場検証などを行っている。

 一回目が2月20日、二回目が3月27日、三回目は9月5日だが、ザック等の捜索が中心である。

 この現場検証では、立場川本谷に下降を始めた地点については、特定できなかったようだが、考えられるルートは二通り。

img007 一つは、山頂から下山後すぐに正規のルートから外れ、立場川本谷方面へそれたとするもの。
 もう一つは、正規のルートは10~20m下ってから、立場川本谷方面へそれたとするもの。
 前者のルートが有力だというが、断定はできなかったようだ。

 滑落発生状況は、阿弥陀岳南稜でCが靴が脱げかけたことで、CLが隊を分けた。
 このとき、山頂付近は気温氷点下20℃、風速9~14mの風が吹いていて、天気は晴れ時々曇りだった。
 雪質はよく、アイゼンは蹴り込めばよく効く状態だった。

 隊が分かれた後、Aが振り返ったとき、靴が脱げかけていたCが靴を履き直していたことから、CLは何かを支えにして、Cを確保し、Cに靴を履かせたと推測できる。

 その後、二人は登り続け頂上に立ったのだろう。それは、Cのザックに、ヘッドランプが入った状態だったことから、二人は明るいうちに頂上に到着したと推測できる。

 CLのザックは9月に発見されたが、ヘッドランプがあったかどうかは不明。雨蓋のファスナーと本体の口が開いていた状態だったという。

 二人の落下地点は広河原沢本谷第2ルンゼであることから、登頂後、方向を誤り摩利支天方向へ進み滑落したと推定したようだ。


【事故原因】

 この報告書では、現役部員が主体となり、事故原因を分析。直接の原因以外にも様々な問題があったことを明らかにしている。
 以下、その問題点を記載する。
 なお、本書には対策も併記されているが省略する。


《登山計画立案段階》
◇山行計画が妥当かどうかを十分に考慮しなかった
①過去に同じ内容の山行計画を実施したという理由だけで、計画を遂行できると考えた。
②緊急事態が起こることまで想定して山行計画が妥当かどうかを十分に考慮しなかった。

◇計画書に記載された装備表の軽視
①計画書に載っているアタック装備を全て持っていかなかった。
 行動をより早くするために、装備表の中から必要なものとそうでないものを自分たちで選び、予備の手袋や個人マットなどを持っていかなかった。


《山行中》
◇北稜を引き返さなかった
①天気の変化に対して、停滞、撤退、同ルート下降等の適切な行動をとらなかった。
②撤退の判断が遅かった。
 先行したA、Bが岩稜に取り付いた時にはまだ視界が良好だった。その後2ピッチ目にとりかかった時点では視界は悪くなり始めていたが、引き返す判断をしなかった。

◇視界が悪い中、地形図とコンパスを使わずに下降した
①視界が悪い中で、地形図とコンパスで現在地や方角を確認しなかった。

◇中岳沢の概念が頭に入っていなかった
①中岳沢に関する知識が不足していた。
②どの程度、事前学習をすればよいか把握していなかった。
③事前学習を疎かにしていた。
 冬に中岳沢を通って下山する際には、雪崩の危険を考慮してまず中岳のコルまで降りる必要があるが、頂上付近から中岳沢に向かおうとしていた。
 また、夏道では雪崩の危険性が非常に高く通るべきでない。この辺の知識がなかった。

◇地形図ではなく概念図で現在地を確認した
①(立場川本谷に迷い込んだ際、)地形図ではなく概念図で現在地を確認した。

◇遭難しているという意識が欠如していた
①ビバーク時、装備、食料の状況、翌日の天気について、最新の情報を確認せず、翌日の行動について検討しなかった。
②緊急事態であるにも関わらず、遭難の意識がなく、計画書にないルートを選択しながら、監督と登山本部へ連絡をしなかった。
 山行する3名が帰幕した際も、すぐに登山本部への連絡をせず、1時間半以上経過してから連絡した。

◇ビバーク時に適切な行動がとれなった
①ピンチ食を食べる際は、リーダーに許可を取るべきであるというルールを知らなかった。
②ビバーク時、水を作らなかった。
③残量が十分でないガスカートリッジを持っていった。
 ビバーク中、隊員は個人の判断でピンチ食を食べていた。また、軽量化のためガスが満タンのカートリッジを持っていかなかった。

◇南稜を登った
①凍傷への認識が甘く、凍傷になった状態でそのまま行動を続けた。
②装備、食料、水が不足している中で行動した。
③極度に疲労している状態で南稜を登った。
④ルートの難易度だけで南稜を登ることを判断した。
⑤計画書に記載されていないルートを登った。
 立場川本谷に迷い込んだ際、CLとCは足を濡らしていたことから、凍傷になる危険性を考慮して直ちに下山することや救助を要請すべきであった。
 CLとCのハーネスが凍り装着できない中で南稜を登った。
 天気や雪の状態、または登山する者の状態によって、ルートの危険性や難易度は変わることを考慮すべき。

◇危険地帯を適切な確保がない状態で登った
①(P3ルンゼは滑落すれば止まらない斜面であるので、スタカットで登るべきであったが、コンテニュアスで登った)

◇隊を分けた
①隊を分けることを危険地帯に入ってから判断した
 山行中に隊を分けることは、状況にもよるが基本的には良い事とは言えない。CLが隊を分けた考えは不明であるが、危険地帯に入る前に、確保の方法や通過の仕方について検討すべきであった。

◇行動記録をとっていない
①メンバーが記録を付けていなかった。
 山行中、計画と実績の差異を確認することは、活動の変更等を考慮する重要な情報となる。


 この報告書には、今回の遭難事故に要した経費についても掲載されている。
 経費は約140万円だったという。
 内訳は以下のとおり。

■事故処理費      1,228,882円
 ◇捜索費用       491,140円
  (内訳)救助隊員謝礼 203,100
      宿泊費    143,800
      消耗品装備代  63,000
      山岳保険料   47,100
      交通費     34,080
  ◇入院治療費(3名分)465,438円
  ◇教職員交通費等   169,573円
  ◇遺族交通宿泊費    97,160円
  ◇雑費         5,571円  

■事故後の経費      171,136円
 ◇検証登山費       85,500円
 ◇交通費         36,760円
 ◇教職員交通費等     48,876円


 今回の学習院大学の阿弥陀岳遭難事故は、前途ある若い二人の学生が亡くなるという非常に痛ましいものでした。それだけに社会に与えた影響も大きく、いろいろな意見がネット上でもありました。

 学習院大学、同山岳部及び山桜会は、この事故と向き合い、三度にわたる現場検証を重ね事故の報告書をまとめられました。

 この報告書は、事実の確認、検証、問題点とその対策を細かくまとめている。
 同大学に限らず、山に登る者はこれを教訓とし、今後の安全登山に役立てるべきである。

 ここに亡くなられた二人の学生に対して、あらためて哀悼の意を表し、ご遺族にお悔やみを申し上げ、この連載を終了する。
 

※文章中の写真は、同報告書より転用したものです。


注)これまでの関連ブログ
 ★八ヶ岳で学習院大パーティー遭難か
 ★学習院大の二人は雪の中から発見
 ★学習院大しっかり遭難事故を検証すると


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